16.バイノーラルオーディオでのコンプレッションの使用

もしコンプレッションをご存知ならば、この段落はとばして結構です。
コンプレッションは、オーディオエンジニアが音をコントロールするためのツールで、一般にはポストプロダクション、すなわち録音の後に用いられます。プラグインソフトウェアか、外部ハード機器のコンプレッサを用います。
コンプレッションは、大きな音のボリュームを抑えながら、小さな音のボリュームをブーストします。コンプレッションによって、録音のディテール(静かな部分)を大いに持ちあげることができ、また、音を大きく、かつ、より豊かにすることができます。
基本的には、すべてのラジオ放送局、音楽アルバム、TVショーではコンプレッションを用いて、全てが聞こえるように音のバランスを整えています。

コンプレッションは、バイノーラルにとって、たいへん価値のあるツールです。
多くの人がコンプレッションを避けたいと言っていますが、私は反対です。
バイノーラルでは、完全なダイナミックレンジを無傷のままにしておきたいという考えから、コンプレッションを使用すべきでないという主張があります。そうすると、音を聞くときに、小さな音に比例して、最も大きな音も実際の音と同じ音の大きさになるように音量を上げねばならなくなります。理想としては賛成ですし、完全に真実だと思います。
しかし、私たちは理想的な世界に生きているわけではありません。音楽やTV、そのほか私たちが制作しているメディアにおける「音量戦争」の世界に生きているのです。このため、音量を上げるべきだと知らない人々は、望ましいリスニング体験をすることができません。しかしながら、これ以外にも、バイノーラルでコンプレッションを用いる利点があります。

バイノーラルオーディオにコンプレッションをかけると、対象の音が実際より近くに聞こえる効果が生まれます。
なぜならば、小さな音で目立った音の音量がブーストされるため、脳がその音をより近くにあると認識するからです。
この「近接」歪は音に問題を起こしますが、コンプレッションを使いすぎた時にのみ、この効果はマイナスになります。焦点距離の長いDSLRカメラのレンズに関して説明しましたように、音をより近くにしたい時には、この効果は利点になります。歪が生じない範囲で、コンプレッションを用いて、バイノーラル録音全体のプレセンスを必要なだけブーストすれば、よりイマーシブなリスニング体験を得ることができます。

実際にコンプレッションをどのように用いるかについては、ポスト処理のセクションで説明します。

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